本日 16 人 - 昨日 0 人 - 累計 13399 人

登場人物

2011年04月07日
クリックで拡大

y.png


できればの話

2011年01月07日
「…なあ、お前さ」
「何」
「傘持ってね?」
「持ってませんよ」

俺が問いただしたのにも関わらず、折り畳み傘を目の前に広げて校舎から出ようとする親友、直の腕をがしりと掴んで引き戻す。

「いやいやいや、持ってるだろ」
「何言ってんですか持ってませんよ、大丈夫ですか頭?」

と普段は使わない敬語をわざわざ使って俺の頭の無事を確かめるかのように手で叩く。色々ムカつく仕草であるが、とりあえず彼の言っていることの矛盾に突っ込まなければならない。傘、持ってるだろ。

「仮にも持ってないんなら隠すぐらいしろよ!持ってるだろ!」
「何度言えばいいのさ。君を入れてもいい傘なんてないって言ってんのが分かんないかなー」

イライラしているのを隠そうともせずに足をたんたんと床にぶつけているが、親友へのその扱いもどうかと思うし、まず濡れずに帰りたいので、諦めずに食い下がる。

「うるせー、黙って入れとけ!」
「やだね。これ女の子に貸してもらったんだもん」
「ッなんだと!」

さらにムカつくことに奴はもてる。仲のいいやつらのなかでは群を抜いて女から人気がある。彼女たちの趣味を疑う。いっつもへらへらしてばかりいる親友に乙女心がどうして奪われるのか全く持って分からない。

「いいだろ。『あのっ、よければ使って下さいっ』だってさー。多分一組の子。かわいかったな」
「ぐぎぎ…いい気になるなよっ。このっ折ってやる!」

その子には悪いが犠牲になってもらおう。評判を悪くしてやる。

「ぎゃーっ!やめろし!怒られるだろーがっ」
「それを狙ってんだっつーのぉ!」

躍起になって直に飛びつくと同時に背後から大きな笑い声が起こった。

「っはっは、お前ら何やってんの。傘取り合っちゃってさーもーらぶらぶじゃん」
「「何アホな事言ってんですか先輩」」

俺らの声が自然重なった。

「そういう時だけ気が合うってヤダネー。先輩にアホとかやめてくんね?先生に聞かれると先輩の威厳な(笑)って笑われんだからさぁ」
「仕方ないでしょ、本当のことなんですから」

直はフォローするつもりが微塵もないらしい。まあ同感なのだが。

「ついでに俺も傘忘れちったから入れてちょ」
「先輩までまだ言ってるんですか?傘なんて持ってませんよ」
「はぁ?とぼけてるつもりかー?その右手に持ってる水色の棒はなんぞや!」
「連射式ショットガンです。先輩の脳天フッ飛ばしてあげましょうか?」

にこりと笑う直の顔は真剣だ。見た目では分からないが、その棒がショットガンでなくても十分凶器になりえるだけの武力を直は有している。直は帰宅部だが個人で空手を習っており、しかも有段者なのだ。俺と先輩はサッカー部に所属している。正直勝てる気がしない。