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bad end syndrome 2

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人間何かしらできることがあるなんて、嘘、嘘。現に何も出来ない人間がいるじゃないか、ほら、ここに。
え、僕?違うよ。そんな訳ないだろ?人間であることが出来てるじゃないか。

じゃあ誰かって?


Bad end syndrome 2

五香野宇聖、といったか。僕の後ろの席に座っている男子だ。勉学より運動に精通している風なやつで、休み時間はいつも幼馴染の女の子の傍にいる。突出している部分は特にないが、見た目に特徴的なのはサバサバした短髪だ。髪の長さ自体は首に軽く掛かる程度と一般常識範囲内であるが問題なのはその色である。
まさに焔のごとく。横文字で格好つけて言えばブライトレッド。染めているわけではないらしいので、校則上の問題はないが、かなり目立つ。
しかも二枚目ときた。目が合えばドキドキすること必至である。この学校内で女子に絡まれず(虐められず、の誤りだ…)にすんでるのはコイツとあと他に二人ぐらいだったか…。そんなわけで、その男気?が欲しいものだ、とうちの学年男子勢の人気と尊敬を集めていたりする。
ファンタジーの結晶とも言えるサンタさんでさえ調達できないブツだろうから仕方のないことだが。

なぜ突然に紅蓮の彼のことを書き述べているのかと言うと、実は今現在丁度この時に、偶々彼と鉢合わせしてしまったからだ。
事の発端はついさっきのこと。神木(君とか付けるなって言われた。僕はさすがに初対面の人を早速呼び捨てられるほど不躾な人間じゃない)が暇なら話をしようと言うので、駅前のファミレスに行くことにした。そして渡り廊下を抜けて門を出ようとしたところ、校舎裏の倉庫の前にいたらしい五香野に声を掛けられたのだ。そうなると鉢合わせという表現には語弊があるかもしれない。

さてその五香野だが、転校生の神木には目もくれず、相変わらず僕を睨みつけつつ近づいてきた。五香野は僕に気に食わないことでもあるとばかりに、少々好意的とは言いがたい態度をとってくることがある。でも本人にその気はないらしく(つまり無意識なのか)、あまり憎めないところもあるのだ。
先程は言い忘れていたのだが、五香野という男はまた、挑発的な口調でも有名なのであった(これも無意識のようだが)。井戸端なんて雰囲気でないのは彼の表情を見るも明らかだし、できればさっさと会話を切り上げて店に入ってしまいたい。彼からの無言の圧力に僕は、あろうことかこの際誰かもはっきりしない神木のほうがマシと考えた。

「えっと、五香野。俺急いでるからさ、また今度じゃ駄目か?」
「…そいつ、誰?」
ここまできてやっと(しかも僕をガン無視して)神木に目を、――本当に目だけ、向けた。
神木は自ら答える気はないようで知らんぷりをしている。バレバレなのだが…。

「転入生らしいよ。神木奎介だって。」
「へえ。俺、五香野宇聖ってーの。コイツん親友だから、よろしく。」

親友らしい。

そしてこちらもやっと、口を開いた神木は「うせえって変わってんなぁ。」とまじまじ五香野の顔を観察していた。ちなみに五香野はすごーくセガ高いので、神木が小さく見える。さらに他から見れば僕はもっと小さいのだが、そこは男として触れて欲しくないところだ。
神木は、僕に教室でしたようにすっと手を差し出した。五香野はさっきの視線に彼への印象を悪くしたようだが、渋々ながらも手を握手するためにのばした。が、しかし、自分から手を差し出したのにも関わらず、神木は五香野の手を払った。

「は?」
五香野が、「意味分からん。」と呟いたのが聞こえた。当たり前か。そして困惑した表情を僕に向ける。こちらとしても理由を教えていただきたいぐらいだ。えーい、五香野、そんな顔すんな。

「すまん、イイとこだったけど、やっぱ俺帰るわ。また明日な。」
依然として整った顔で僕に笑いかけて神木は去って行った。漫画とかによくある表現だけど、まるで嵐みたいだった…っていうか、なんで五香野殴ってったのか教えて欲しいんだけど。どうフォローしていいか分かんないだろ…。まだ五香野が怒ったとことか見たことないけど、怖そうだし。また明日って言ってたから明日から登校予定なのかな。面倒だけど明日も学校行かなくちゃならないっぽい空気だ。

「あ、りょー。呼び止めて悪かったな。急いでたんだっけ?俺の用事は別にまた今度でもいいから。またな。」
そういえばそういうことにしてたかな。

「こっちこそなんかゴメン。じゃ。」
五香野の用事も気になったけど、もういいや…。五香野と別れて駅に向かう。今日は確か駅前に鯛焼きの移動販売の車が来てる筈だ。お腹が空いた。なんだかんだでもう一時をとうに回っている。さて、五香野の憎めないところんついてはなんとなく分かってくれたと思うんだけど、一応。気遣いのできる優しいお兄さんで、体格からはあまりイメージできないが、こちらが構ってあげたくなってしまうタイプ。しかも僕のことを、僕が周りが蚊等かって変に呼ぶのを嫌がるのを知ってか知らずか、りょーと呼んでくれる。この呼び方は嫌いじゃない。彼だけが真面目に読んでくれるのが更に効いているのだろう。僕と五香野は実は今や二年半程の仲だ(高二でクラスが一緒になった)。幼馴染というほどではないが、少なくとも他の高校からの友達よりかは近しい。それなのにこう、ぼくを睨み付けてきたり(無意識なのは分かっているけれど)する理由が分からないので少し苦手意識を持ってしまっているのだ。いずれ理由を聞いてみたい。…ちょっと恐いんで僕の身長がせめて神木ぐらいになったら。
そういえば、五香野は元関西人である。日本語の上手い外人さんの微妙なイントネーションの違いみたいな差がちょっと癖になるので、皆様にも聞いていただきたいところだ(紙面上で何を言っているんだか)。まあ、できればの話しなんだけど。さっきの通り割かし無口なやつなので、関西弁の鱗片がチラ見えするぐらい気を許してもらえるまで四ヶ月くらいかかるかもしれないしね(というか僕自身それくらいかかったんです)。因みに高二からの仲といっても僕は小学校で二年間すでに一緒になっているのだけれど。

彼の父はどうやら所謂転勤族のようだ。





「あれっ、壱…さん?」
「ふぁは、ひみは!」
口いっぱいに鯛焼きを頬張った壱さんがなんか凄い笑顔で駆け寄ってくる。
ゆっくりでいいですから!ちゃんとお口の物食べ終わってからしゃべって下さい!

「むぐ、ごぼっゲホゲホ…」
制止を掛ける前に盛大に咽る壱さん。言わんこっちゃない。

「…大丈夫ですか?はい。ハンカチです」
「うーん、ありがとう」
「壱さんもここの鯛焼き好きなんですか?というか、壱さんそもそもここらへんに住んでるんですか?」
「僕は隣の隣の駅だよ。新喜多川一丁目にアパート借りててね、ここの鯛焼き好きだから大学帰りの買い物ついでによく来るのさ」
壱さんは河瀬駅を使っているらしい。今いるのが南喜多川。隣は新喜多川だ。おっと。案外ぼくのご近所さんじゃないか?壱さんは河瀬、僕は新喜多川を使うから会わないけど(河瀬は小さい駅なので通ってる線が少ないから)、家の住所は近い。今度遊びに誘おうかな。

「俺もです。俺は…これ、カスタードイチゴが好きなんですよ。生クリームみたいに甘過ぎなくて、イチゴもおっきいんで二つぐらいで十分お腹膨れますし」
「僕は普通に白玉あんこかなあ。白玉好きなんだ」
あ、今ちょっと火花散ったような。そして鯛焼き話に花を咲かせた。やっぱり美人さんは羨ましい。たとえ格好が公園の砂場で泥んこになったと思われる長袖黒シャツにカーゴパンツで手はべたべた、地面に食べかすを落としまくっていても、しょうがないなの一言で済ませてしまうのだ(僕が)。
僕だって…と意地を張るほどの自信があるわけでもないし、何も言えないけれど。全く、僕は一日何をしていたんだろうか。




壱さんと普通におしゃべりをして終わったその翌日。まあつまるところ神木とぼくが出会った次の日のことなのだが、彼奴がどんな自己紹介をしてくれるのか、僕としては少なからず期待をしていた。しかし、その期待は担任の一言で呆気なく打ち砕かれた。

「おはようございます。えーと、残念なのですが、今日転入する予定だった神木君が諸事情でしばらく学校に来られなくなったそうです。…えー連絡他にありますか?」
ホームルームの最後に先生が一言「今の時代、世の中物騒ですから登下校中は特に気をつけてくださいね」と注意したのに何の意図があったのか、それを想像して、何も言えなくなった。
『神木に何か悪いことが起きたのではないか』
…そうとしか考えられなくなっていた。考えれば考えるほど悪くなるばかりだ。気がつくと放課後だった。全然集中できなくて、今日の授業内容、全く覚えてない。ふらりと力無く立ち上がり、先生に聞きに行くことにした。
こんなバカらしい悪い予感当たらなければいいけど。






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